企業の農業参入の現在地③ ワンストップの総合相談窓口 岐阜県の取り組みとは?

過去2回の特集では、農業に取り組む企業を誘致する地方自治体の目的や施策、参入する企業の思いを伝えてきた。今回は、実際に農業を始めようと考える企業がどのような流れで参入をしていくのかをみていく。

岐阜県で農業に参入するなら
ワンストップで相談を受け付け




*ぎふアグリチャレンジ支援センターは、ワンストップの総合相談窓口

2017年4月、岐阜県の一般社団法人 岐阜県農畜産公社と同じ建物内に「ぎふアグリチャレンジ支援センター」が設立された。岐阜県が進める農業の「多様な担い手づくり」を推進するため、県や県農業会議、地元の金融機関などが職員を派遣してつくった組織である。現在は同センターが直接採用したスタッフがほとんどで、独立性の高い運営をしている。

「従来は、農業を始めたい個人や法人の相談、農地取得や資金の悩み、法人化など、農業に関する各種の相談先がバラバラの状況でした。それらをすべて1カ所にまとめ、ワンストップで受け付けられる総合相談窓口として機能させています」と話すのは、支援センターの担い手部経営支援課の担当者。

相談の入り口を1カ所にまとめてわかりやすくするのが一番の目的だ。支援センターは就農や企業参入についての相談を受け付け、農地の規模や栽培したい作物をヒアリングし、農地をマッチングさせ、仲介するまでを担っている。



*就農支援ポータルサイトで情報発信(出典:ぎふアグリチャレンジ支援センター)

相談者に紹介するのは、担い手がいなくなった農地や、有休農地を優先している。農地の契約については、支援センターが関与せずに当事者同士で行われる。

第1回で紹介したアグリラボの児玉浩一さん(岐阜県瑞穂市)も支援センターを頼りにした1人。支援センター主催のセミナーや交流会、勉強会で学んだり、専門家に繋いでもらったり、そうしたサポートを利用した。

農業委員会や全国農業会議所も
企業参入のサポート役に


市町村の農業委員会の中にも、企業が地域に参入する際に、希望に合った農地探しや、地主との仲介などの参入の入り口段階の手助けのほか、就農したあとの規模拡大、農地の集約化などの支援を行っているところがある。

また、農業委員会の運営支援を行う全国農業会議所も企業に対して、農業への参入を働きかけている。「地域を超えたネットワークを構築し、参入企業同士で自由に情報交換できる場として農業参入法人連絡協議会を2006年に設立しました。定期的に研修会や勉強会、農林水産省との意見交換会などを開催し、企業参入の相談役のような形でサポートしています」と全国農業会議所農地・組織対策部の伊藤野百合さんは説明する。

⇒農林水産省 企業等の一般法人に対する農業参入相談窓口について資料はこちら

⇒農林水産業 企業等の農業参入についての資料はこちら

農業に参入したい と思ったら
次のように進めていこう


ここからは企業が農業に参入する際の流れをみていこう。

1.参入目的を決める

農業生産をビジネスの柱として行いたい、既存の事業との相乗効果を図りたい、人材の活用や再雇用先にしたいなど、農業を行う目的を明確にする。

2.農業参入についての情報収集

各都道府県の農業参入相談窓口への相談、次世代農業EXPOや農林水産省が開催する農業参入フェアなどの農業参入展示会に参加するなど、参入についての情報収集を行う。



農林水産省で企業の農業参入に関するイベントを開催(出典:農林水産省)

3.参入形態をどうするか

経営の主体として農業を行うのか、どのような作物をつくるのか、農地を所有するのか、借りるのか、以上のような点をクリアにしていく。



農業への参入形態(出典:栃木県)

農地を使うには、基本的な要件として、
①農地のすべてを効率的に利用(機械や労働力などを適切に利用するための営農計画を持っていること)
②周辺の農地利用に支障がない(水利調整に参加しない、無農薬栽培の取組が行われている地域で農薬を使用するなどの行為をしないこと)

以上の2点を満たした上で、農地を所有するのか、借りるかを選択する。農地を借りて農業を行うには一般法人のままでよいが、所有するには法人とは別に、農地所有適格法人をつくる必要がある。農地をリースした方が初期費用は抑えられるが、農地所有適格法人の方が自由度は高い。なお、植物工場などのように農地を使わない農業経営もある。



農地を使用する形態(出典:農林水産省)

農林水産省が企業の参入事例を挙げているのでこちらも参考にしたい。

⇒農林水産省 企業等の一般法人の参入事例はこちら

⇒農林水産省 農地所有適格法人の参入事例はこちら

▶︎参入希望地・農地の条件

現在の企業所在地から近い、鉄道の利便性がある、高速道路を利用しやすいなど、農業を行いたい場所を検討する。また、生産する作物に適した土地か、収量的に採算が取れる面積か、地域と信頼関係を構築できるか、なども重要だ。

4.事業計画を立てる

事業内容、経営目標、生産・販売計画の策定や、参入に向けたスケジュールを立てる。自治体の中にはJAなどと連携して、農業経営に関するアドバイスや技術習得のための研修会などを行っているケースもあるので、そのような案内をキャッチしよう。

経営資金に関しては、自己資金の他に各種の補助金を利用する方法もある。新規参入においては、日本政策金融公庫による「青年等就農資金」、「経営体育成強化資金」、「農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)がある。法人の場合は、「青年等就農資金」最大3,700万円、「経営体育成強化資金」最大1億5,000万円(新規参入の場合)、「農業経営基盤強化資金」最大10億円の融資が受けられる。融資の条件として、資金の使途の指定、経営改善資金計画の提出、認定新規就農者や認定農業者になることが定められている。

⇒日本政策金融金庫の資料はこちら

参入する企業には、農業の経営体制をしっかり整え、長期的・持続的に事業を行うことが求められている。企業理念と照らし合わせて事業の目的を設定し、参入に向けたビジョンを計画的に練っていきたい。農林水産省は、農業経営の支援策を記載した「農業経営支援策活用カタログ」を発行し、農地の現状や、各種課題の支援策、雇用拡大、設備投資、用地取得などに利用できる補助制度をまとめている。こちらも活用しよう。

⇒農業経営支援策活用カタログ2024はこちら

取材・文/本多祐介

現在出展中の自治体

宮崎県

宮崎県は平均気温、日照時間、快晴日数がすべて国内トップクラスで、「日本のひなた」のキャッチフレーズに象徴される、明るく温暖な気候は豊かな農産物を育むことができる環境です。

埼玉県企業等農業参入相談窓口

埼玉県では企業を「新たな農業の担い手」と位置づけ、農業参入を支援する「企業等農業参入相談窓口」を設置しています。 県がつなぎ役となって、市町村や関係機関と連携し、企業のみなさまの農業参入をお手伝いします。