企業の農業参入の現在地② 誘致を進める自治体の施策は?

地方自治体が農業参入企業を誘致するには、まず自らの現状を認識しなければならない。そのため民間の知見を取り入れ、具体化した事例がある。そこには、「地域計画」の影響も見えてきた。【2024年度版】

民間のコンサル企業に
誘致業務を委託するケースも



*栃木県宇都宮市は農業参入企業誘致の公募型プロポーザルを実施

第1回でみてきたように、地方自治体による農業参入企業の誘致が加速しつつある。その中には、「誘致を進めるため、どのような手法を取るのか」を民間の農業コンサルティング企業などから提案を受けて、業務を委託している自治体もある。

栃木県宇都宮市は、2024年6月に「農業参入企業誘致支援業務に係る公募型プロポーザル」を実施した。それによると、宇都宮市の「第3次 宇都宮市食料・農業・農村基本計画」に基づく農業に関連する施策を推進する上で、①農業参入企業の誘致を目指すべき「企業誘致対象エリア」の抽出、②誘致の際の企業への提案の基となる「誘致コンセプト」の作成、③実現可能性の高い「誘致対象企業候補者」をリストアップの3つの業務を委託する企業を公募した。宇都宮市としては、初の取り組みだ。

「市内の農地にどのような需要があるのか、企業が望む条件が整っているのか、市としてもすべてを把握できてはいない状況です。また、これまでは企業からのニーズに応じた参入支援を多く実施してきましたが、今回の提案をもとに、農業に興味のある企業へ積極的に誘致を働きかけていくことになります」と宇都宮市経済部農業企画課の担当者は説明する。


*広島県東広島市は農業企業スカウティング業務公募型プロポーザルを実施

広島県東広島市でも、今年5月に「農業企業スカウティング業務公募型プロポーザル」を実施し、農業に取り組む企業を対象とした誘致策を公募した。同市農林水産課は、「県外、市外の企業の方に本市のことを知っていただくため、まずは本市の立地・気象条件などの地理的な特徴、誘致に向けた方向性などをまとめた誘致パンフレットを作成し、各企業へのPRに力を入れることから始めていく予定です」としている。その上で、誘致したい企業像と委託業者が持つ企業情報をベースに、誘致対象企業をリストアップし、企業側へアプローチしていく考えだ。

広島県と東広島市が
農業法人を誘致


2021年には、広島県でも同様の公募型プロポーザルを実施しており、農業企業の誘致にチカラを入れている。東広島市は広島県と連携して農業企業の誘致に向けた取り組みを進めており、2023年には熊本県の農業法人の誘致が実現した。栽培する作物の広島県内の消費量が多かったことや、いわゆる「2024年問題」などの物流の課題解決になること、台風による被害が少ない地域であることから、東広島市への進出を決めたという。

「後継者がいない農地がたくさんあるので、進出してください」と呼びかけるだけで企業が来てくれるわけではない。自治体が抱える農地にどのような特性があり、どのような営農が展開できるのかを、自治体自身が認識することが重要だ。その上で企業に具体的な営農のイメージを提供し、誘致を進める。そのような動きが始まっている。

誘致加速の背景には
「地域計画」の影響も


農業分野への企業参入がしやすくなるように農地法が改正されたのは2009年。いま、自治体が誘致に力を入れ始めているのは、担い手不足が深刻化していることに加えて、「地域計画」も影響しているとみられている。

農地の利用や農業の担い手を増やすことを目的に、2012年から地域と農地に関する将来の方向についてアンケート調査や話し合いを実施する「人・農地プラン」が自治体レベルで推し進められてきた。2023年4月の改正農業経営基盤強化促進法の施行により、法制化されたのが「地域計画」の策定だ。地域農業の将来のあり方の計画に加えて、10年後の耕作予定者を明示する目標地図を作ることが義務付けられた。地域計画は2025年3月までに策定しなければならない。


農地の分散が生産の非効率を招いている。(出典:農林水産省)

企業の参入・誘致にあたっての課題として、農地がバラバラとまだら状に分散していることが指摘されている。参入する企業などが農地を利用しやすくするためには集約化する必要がある。まとまった広さの農地を用意できれば、生産効率が向上し、企業の参入もしやすくなる。個人の農家にとっても規模拡大がしやすくなるなどのメリットがある。こうした方向性を定めるのが地域計画の目的のひとつだ。


目標地図による農地の集約化のイメージ(出典:農林水産省)

ただ、農地は個人所有が多く、地域計画の策定には関係者の同意が必要だ。自治体は区域ごとに、農業者・農業委員会・農地バンク・JA・土地改良区などの関係者による「協議の場」を設置し、それぞれの区域の農業の将来のあり方を協議するように定められている。

東広島市農林水産課では「果たして農業法人に参入してもらうだけでよいのか。農業振興を図りながら地域をより良くするためにはどのような方法で誘致活動を進めるべきなのか。そうした悩みは尽きません」と逡巡する。地域にとってベストな形が何なのかは、各々の地域が決めていくしかない。

現在出展中の自治体

宮崎県

宮崎県は平均気温、日照時間、快晴日数がすべて国内トップクラスで、「日本のひなた」のキャッチフレーズに象徴される、明るく温暖な気候は豊かな農産物を育むことができる環境です。

埼玉県企業等農業参入相談窓口

埼玉県では企業を「新たな農業の担い手」と位置づけ、農業参入を支援する「企業等農業参入相談窓口」を設置しています。 県がつなぎ役となって、市町村や関係機関と連携し、企業のみなさまの農業参入をお手伝いします。