企業の農業参入の現在地① 農業に参入したい企業と、農地を活用したい自治体

荒れた農地が増えて、農業の担い手も足りない。日本各地がこのような状況の中、2023年4月の改正農業経営基盤強化促進法の施行によって、地域農業の未来図が書き変わりつつある。農地を利用したい企業と自治体の実情を追った。【2024年度版】

電子部品工場が
フリルレタスを栽培


約5000㎡のビニールハウスの中、目の前いっぱいにレタスの畑が広がっている。2018年6月、岐阜県瑞穂市でフリルレタスの栽培を開始したアグリラボ株式会社の農地である。「信長レタス」や「光秀レタス」と命名した商品が人気を博し、出荷先も増加中だ。

「おかげさまで近隣の方にも好評で、コロナ禍で補助金が交付されたこともあり、24時間いつでも買いたいという要望に応えるため会社の前に自動販売機を設置しました。レタスの自動販売機は、他ではちょっと見たことないですね」。


アグリラボでは、レタスを生産するビニールハウスの前にレタスの自販機を置く(出典:アグリラボ株式会社)

取材に応じてくれたのは、アグリラボ代表の児玉浩一さん。レタスを買いやすくするだけでなく、暖房費を抑えながらハウス内の温度管理をする設備の見直しや、LEDライトを駆使した太陽光とのハイブリッド栽培など、環境にも配慮したコスト削減と、収量増の工夫に余念がない。地元メディアにもたびたびその取り組みが取材され、注目を集めている。

児玉さんは同時に、岐阜県で電子部品の製造に携わるユニオン電子工業株式会社の社長でもある。アグリラボは、他の業種から農業に進出した企業なのである。

農地の利活用と
担い手不足が背景に


アグリラボのように、別の事業を行っていた企業が農業に参入するケースが増えている。きっかけは2009年の農地法の改正。これによって企業による参入や出資がしやすくなり、これまで農業を事業として実施していなかった企業を含めて、各自治体が積極的に誘致に乗り出し、農地の有効活用を進めている。


農地を貸したい人、借りたい人、それぞれに理由がある。(出典:農林水産省)

背景にあるのは、日本国内の人口減少と高齢化だ。このままでは、農業従事者の不足によって、これまで通りの作物の供給ができなくなることが予想され、日本の農業の未来が危うくなる。そこで国や自治体は農業の担い手を増やすためのさまざまな対策を練っており、そのひとつとして、企業や法人を誘致する施策が取られているのだ。

参入する企業の意図とは?
農業に共通項を見いだすことがカギに


事業としての農業事業の魅力、作物の生産自体への関心、食品加工メーカーによる原材料の確保、等々、企業側としても農業参入や誘致に乗る理由は多種多様にある。先ほどのアグリラボの例では、社員の勤務形態の再検討が発端となったという。

「ユニオン電子工業の工場は24時間稼働しているため、スタッフを時間交代で勤務させています。しかしスタッフも高齢になっており、あるとき交代勤務が辛いという声が上がりました。それをきっかけに、日勤だけの別の事業を起こすことを発案して、実現したのが農業だったのです」(児玉さん)


アグリラボ代表 児玉浩一さん(出典:アグリラボ株式会社)

実はこうした例は少なくない。例えば営業社員の世代交代のため、定年に近づいた社員の受け皿として農業を選ぶケースもある。一見、他業種と農業はまるで関係ないように見えるが、児玉さんはこうも感じている。

「私たちのケースでいえば、『ものづくり』という観点では電子部品も農業も同じという認識です。やや強引かもしれませんが、生産管理、生産改善、原価計算など、適切なものを安定的にお客様へ安定的に届けるという意味では、似ている部分はとても多いんです」。

あまり意識されないが、作る、売る、用地を拡大するなど、他業種のノウハウを農業に活かせることは、もっと気づかれるべきなのかもしれない。そうすれば、有休農地を活用したい自治体とのマッチングがもっと進むはずだ。

中山間地の自治体が
積極的に誘致活動


担い手が不足しているのは全国的な傾向だが、全国の市町村の農業委員会を支援する全国農業会議所の伊藤野百合さんによれば、特に熱心なのは中山間地域であるという。全国の耕地面積の約4割、総農家数の約4割を占める一方で、地理的な条件や気象条件から農業の生産が不利であることも多く、過疎化や耕作放棄の増加が進んでいることが理由だ。

では、どんな企業が農業に参入しているのだろうか。
「近年の傾向としては、地元の企業の参入が増えているように感じています。受け入れる地域としても、なじみのある地元の企業であれば農地をきちんと使ってくれる安心感が得られるからではないでしょうか。また、こうした企業は息の長い取り組みとして農業を続けていく傾向もあるように思います」(伊藤さん)。

また、推測を含むと付け加えた上で、新型コロナウイルスの影響で厳しい状況に置かれたサービス業や飲食の企業が方向転換を迫られて、農業に向かう例もあったのではないかとも語る。

一方で、農地には課題も多い。よく知られているのは、土地が飛んでいたりまだら状になっていたりして、企業が望むような、まとまった広さがの確保ができないケースである。第2回は、これらの課題の解消が期待される「地域計画」や、自治体の誘致策について触れていく。

現在出展中の自治体

宮崎県

宮崎県は平均気温、日照時間、快晴日数がすべて国内トップクラスで、「日本のひなた」のキャッチフレーズに象徴される、明るく温暖な気候は豊かな農産物を育むことができる環境です。

埼玉県企業等農業参入相談窓口

埼玉県では企業を「新たな農業の担い手」と位置づけ、農業参入を支援する「企業等農業参入相談窓口」を設置しています。 県がつなぎ役となって、市町村や関係機関と連携し、企業のみなさまの農業参入をお手伝いします。