作物も熱中症になる、というと耳慣れないかもしれない。高温により作物に悪い症状が出ることを「高温障害」という。安定した収穫のため、その症状と対策について学ぼう。 地球温暖化で作物の「高温障害」が増加している。作物生育適温を超えることによる光合成量の低下、代謝の異常などが原因で引き起こされるという様々な障害だ。気温が高い状態が続くと作物は焼けしおれてしまう。気温が上昇しやすいビニールハウスのみならず、露地栽培下でも起こりうる。 対処法の1つに葉温を下げる方法がある。植物は室温の上昇、強風や強い光が当たるといった環境下で体内の水分を守ろうと自己防衛で葉の気孔を閉じる。だから蒸散が止まり、葉温が上がる。その結果、光合成量が低下してしまうのだ。 ひとたび高温障害になると、例えば水稲では未熟粒が多発したり、果菜類では糖度が不足するなど作物の品質が一気に落ちてしまう。最悪の場合、出荷できない状態となり経営に大きなダメージを与える。 夏を無事に乗り越えるためには、あらかじめ高温障害の症状と具体的な対策方法を知っておくことが何よりも重要だ。 1 実が割れ株が枯れる!恐怖の高温障害 高温障害は気温30℃以上、または平均気温が25℃以上の日が続くと発生しやすくなるといわれている。症状としては、果菜類であれば実が割れる「裂果」、色のりが悪くなる「着色不良果」、果頂部が水浸状となり陥没する「尻腐れ果」、皮の生育に果肉の部分が追いつかない「空洞果」などが発生する。 他の作物でも、葉が退色して株が萎れて枯死したり、花の花粉が出ない、着果しない、花が落ちるなどの症状が出てくる。こうした症状が現れると作物を出荷できない状態になる。 特に高温障害に弱いのが水稲だ。近年、白未熟粒の多発が全国的な問題となっている。稲作では出穂後の気温が高いと生育が進み種子の発育・肥大(登熟)の期間が短くなり、刈り取りの適期が早まってしまう。 他に追肥、病害虫の防除などすべての作業の適期がずれてしまうため、高温障害が出る恐れがある中でいつも通りの作業をすると、生育不良、病気などさまざまなトラブルが起こる恐れがある。 2 遮熱から水、肥料管理まで対策は多様! 施設栽培、露地栽培共に最もポピュラーな対策が寒冷紗などの遮熱、遮光資材を使うこと。高温に弱い苗を守るために、育苗期に使用すると効果的だ。 施設栽培なら、空調・冷房システムを導入すれば温度を調整しやすい。定植後も日中の暑い時間帯にあわせて遮光カーテンなどで日射を調節しよう。温室のビニールなどに吹き付ける遮熱ペイントでの遮熱も可能だ。熱気がこもらないように、空気孔を開放して換気することも重要だ。葉温を下げるという観点なら細霧冷房(ミスト)を使うのもいい。 高温回避策としては、出穂期を遅らせて涼しくなってから登熟するよう調整したり、気温が高くなっても穂の温度が上がらないようにかけ流し灌漑など水の管理を行ったりする方法がある。最初から高い気温に耐性を持つ品種を選び、作物の環境ストレスを減らす肥料の施用などで地力を上げることも予防策となる。 このように対策はたくさんあるので、自分の作物に合わせた方法を選ぼう。 高温障害は病害ではないにせよ、収量、品質を守るために対策は不可欠だ。悪化すれば大幅な収入減につながる恐れがある。作物の種類だけ高温障害の症状も様々で、対策や予防方法も多種多様だ。露地栽培か、施設栽培かでも変わってくる。今後も地球温暖化などで平均気温が上がり続けることが予想される中、どんな症状、対策があるか事前に把握し、気温が上がる真夏に向けてしっかり予防しよう。